2008-05-05

トレード (2) なぜトレードが行われるか

経済的に見た場合に、なぜものの交換が行われるかというのは非常に興味深いことです。無論、経済学者でもないので、用語・概念は適当ですが。


交換により双方の価値は増える!?

うる覚えですが、経済的には、「ものの交換が行われると全体の富が増加する」と習いました。Aさんがxというものを持っていて、Bさんがyというものを持っている場合において、AとBが経済合理的に持っているx, yを交換したい場合、それを交換することによって、A, B両方の富が増え、よって、全体の富も増えるというものです。

習ったときは、なんだか錬金術のような・・・・と感じたものです。だって全体でx, yがあるのは変わりがないのに、交換によって価値が増えたと「いいはる」のですから。いくらyはAにより高く評価・活用され、xはBにより高く評価・活用されるといわれたところで、ま、そうとも言うけど、あるものは変わっていないのだから、「だまされないことが大事、所詮主観的な価値に過ぎず、客観的な価値は変わっていないんだから」くらいに思ったものです。

ただ、ファンタジーにおいては、これを実感として感じることができます。

売買・交換が行われるときはどういう状態なのか

そもそも、人がものを売ったり交換したりというのは、どういう状態なのでしょうか。先のAさんがxを持っていてそれを手放すということを考えてみます。

Aさんが合理的な考え方を貫く限り、Aさんは自分がxについて認めている価値以上の対価を提供されたときxを手放すことになります。

たとえば、Aさんがxについて10の価値を認めているときに、11の価値のものを提供されれば、合理的なAさんはxを手放し11の価値のものを手に入れるのです。11の価値のものはAさんにとって11の価値があるので、Aさんの持っている富は10から11に増えるのです。Aさんが代わりにに取得するものが金銭であれば売買、金銭以外のものであれば交換となります。

この説明にあたり、経済の授業の事例では、おかし(いろんな種類が欲しい)であるとか、かんな(大工の方がそれを活用して富を得られるので高く評価する)とかが使われたように記憶していますが、そんなものより、むしろ、ファンタジーで説明するのが一番わかりやすいのかなと思います。

たとえば、fantasy baseballにおいては、毎日2塁手、3塁手をそれぞれ1名しか使えません。全体で1番いい3塁手(能力10)と2番目の3塁手(能力9)を持っているけれども2塁手については15番目(能力1)しか手に入っていないAさんがいるとするとします。一方、Bさんは全体で1番いい2塁手(能力8)、2番目の2塁手(能力5)と、15番目の3塁手(能力1)を持っているとします。FA、他のプレイヤーからの選手の流入はないものとします。

この場合、取引がないとすると、Aさんが日々使うことができる戦力は、1(2B)+10(3B)の11,Bさんについては8(2B)+1(3B)の9です。それぞれ、枠が決められている以上、きわめて高い控えを持っているにもかかわらず、その能力を使うことができないのです。したがって、選手の故障・不調がないとすると、Aさんにとっての2番手の3塁手、Bさんにとっての2番手の2塁手はそれぞれ価値がないということになります。つかえないものは、もっていてもしょうがないですからね。

この場合、AさんとBさんが合理的である限り、取引をすることになります。取引の組み合わせは下記の通り様々ありえ、どれになるかは交渉次第です。いずれにしても両者の合計が増えるからです(パレート増加)。

事例

A: 保有選手3B1(10), 3B2(9), 2B15(1) -> 合計11
B: 保有選手2B1(8), 2B2(5), 3B15(1) ->合計9

交換選手

交換後のA

交換後のB

3B1(10)2B1(8)

2B1(8)+ 3B2(9) = 17

3B1(10)+ 2B2(5)=15

3B1(10)2B2(5)

3B2(9)+ 2B2(5)=14

3B1(10)+ 2B1(8)=18

3B2(9)2B1(8)

3B1(10)+ 2B1(8)=18

3B2(9)+ 2B2(5)=14

3B2(9)2B2(5)

3B1(10)+ 2B2(5)=15

3B2(9)+ 2B2(8)=17


おわかりのように、どの組み合わせによっても、A、Bいずれの戦力も増強されます。これが、交換により富が増大したということです。ファンタジープレイヤーにはこれが一番わかりやすい(笑)。

合理的に考える場合、Aにとっての3B1(10)は、1しか価値がなく、3B2(9)は価値が0。Bにとって2B1(8)は4しか価値がなく2B2(5)の価値は0。したがって、それぞれの当事者にとってそれ以上の価値のあるプレイヤーを持ってきてくれるなら、交換しちゃうのが合理的なんですね。

全体の富についても、交換前は20(A, Bの合計)であるのが、交換後は32まで増大し、資産が有効に使われていることになります。パレート最適の実現ですね。どの組み合わせでもパレート最適です。ま、何をwinと呼びたいかというのはありますが、通常パレート最適であればwin-win dealと呼ばれるのでいずれもwin/win dealです。

で、どの組み合わせになるかは本当に交渉次第。

それぞれ、正当化要素をあげてみます。

①3B1 (10)と2B1 (8)

それぞれのトップ選手の交換。そのポジションにおいてはその選手がトップであり、ともに1位との評価をなされるべきというのが言葉上の理由ですかね。こんな戯れ言はともかく、問題は数字です。言葉なんて何とでもいえますからね。

数字的な価値についても、絶対的な価値は3B1(10)の方が2B1(8)よりも高いが、2位選手との差は、それぞれ3B1(10)- 3B2(9)=1、2B1(8)- 2B2(5)=3であり、どっちが客観的に価値があると見るかは人により分かれそうです。3B1(10)の方は絶対的な価値があり、2B1(8)にはポジションプレミアム的な価値があるということですね。

できあがりをみるとAは6点増加、Bも6点増加、Aの方が増加は大きいです。また、総合点もAの方が2点大きい。ただ、元の値もAの方が2点大きいので、増加量をみて同等ということもできるかと思います。

このようにどちらがどの程度得をしたか、というのは様々な価値判断で結果が分かれてきます。

②3B1(10)と2B2(5)

同様に、この組み合わせも両方の価値が増えます。Bにとって一番おいしい取引。

しかし、増加ポイントが異なること、交換後に地位が逆転することから、AがBと競うことを考える限り、Aは受けない方が合理的ともいえそうです。実際のゲームにおいては、ポジションが様々あること、他の選手とも競ったりトレードしたりできることから、Aとしてこれを受けるという判断が、合理的である場合もままあります。

③3B2(9)と2B1(8)

これも増加。

Aにとっては一番おいしい取引です。増加量も、増加後の合計も一番大きい。Aの立場でBを説得する材料としては、3B2(9)の方が2B1(8)よりも能力が高いというのがあるでしょうか。ポジションプレミアムを考慮しないプレイヤーとか、リーグのフォーマットによる選手の価値の差をあまり考えないプレイヤーは多く、実際にもよく行われる取引です。

ただ、Bがフォーマットによる価値の差を考えていたとしても、②におけるA同様、他の要素で勝てると思えば、受けるのが合理的な判断ということになります。

④3B2(9)と2B2(5)

これも増加です。

Bにとっておいしい取引。Bとしては、お互いの控えを交換しましょうと相手を説得するのでしょうかね。Aがポジションプレミアムをちゃんと考えるプレイヤーで、Bが絶対に2B1(8)を出さないという姿勢を示した場合、成立の可能性は十分にあります。ただ、合理的なAは他でポイントをさらに稼ぐ(たとえば2B2(5))をOF2(13)などと交換できるとか)あてを準備したいところですね。

このように、さまざまな組み合わせで、両者にメリットのある取引というのは成立し得ます。

ただ、金銭というみんなに絶対的な価値のあるものが存在せず、あくまで選手間の交換であるため、成立する組み合わせを考えるというのは、言葉以上に骨が折れます。

また、皆が合理的プレイヤーかというと、90%以上違う(笑)。だいたいは、自分のプレイヤーは必要以上に高く評価し、相手のプレイヤーは必要以上にリスクを感じます。上の例で言うと、それぞれ、デメリットを強調する。増加量が違うとか(相手の方がメリットが大きい)、選手の格が違うとか、こちらの選手の方が実力があるとか。

交換に便利な金銭というのがないために起こる現象で、それはそれでとても興味深いものがあります。

こういったことは、上のように選手の能力がはっきりわかっていた上の交渉であっても主張可能なものであるところ、実際には選手の能力を見極めることができないのですから、それはもう・・・人の反応がおもしろいです。怒ったり、無視したり、強気に出たり、本当に様々な反応と交渉が行われます。

第三者にとっての効果

では、この両者に有効な取引が行われた場合、第三者Cにはどういう影響があるでしょうか。

Cは、3B3(8), 2B3(4), 3B4(7)を持っているとします。合計12

取引前はCが12 (1位)、Aが11 (2位)、Bが9(3位)


取引により順位はどう変わるでしょうか。括弧内が順位です。


A

B

C

3B1(10)2B1(8)

17(1)

15(2)

12(3)

3B1(10)2B2(5)

14(2)

18(1)

12(3)

3B2(9)2B1(8)

18(1)

14(2)

12(3)

3B2(9)2B2(5)

15(2)

17(1)

12(3)



いずれの取引によっても、はっきりしていることはCが1位から3位に転落することです。ま、そうなるようにCの数字を設定したというのはありますが(笑)。

言葉で言うと、他の2名がトレードにより富を増やすならば、その配分はどうであれ、Cにとっては常にマイナスで、他の事情がない限り人のトレードはCにとっていいことはない、ということですね。

人の幸福は我が身の不幸、人の不幸は蜜の味というのが、同じリーグのプレイヤー間の状態ですので、非常にネガティブな発想ですが、しょうがないです。表だって言うかどうかはともかく、それが経済的な動きですから(笑)。

よって、CはVetoするのが合理的となります。人の取引をつぶしにかかるということですね。

これが原則的な力学なので、Vetoすべき場合を限定すべきという主張をする場合、相当な根拠が必要となります。無論、A、BがVetoは不合理だ、フェアプレーに反するというのはともかく、他のたとえばDがVetoすべきではないとCを諭すのは別の力学が必要となってくるのです。たとえば、Vetoが蔓延すると取引が行われにくくなるとか。。。

したがって、少なくとも他人がVetoした場合、その行為自体を責めるというのは全くもって筋違いであるということになります。

CにVetoする正義(笑)はあるか!?

Vetoするにあたって、もし、Cに理由が必要だとしても、自分に損だという以外にも理由は簡単にいえます。

①3B1(10)と2B1(8)の場合、価値が違うといえばいいのです。また、2位にしかなれないBに対して、Bが1位となる取引3B3(8)と2B1(4)の交換というよりBに有利な取引を持って行くこともできるため、「AはBからむしっている」と言い張ることも可能です。現に自分ならもっとBに有利な取引を持って行くことができる以上あながち不当な主張ではありません。

②3B1(10)と2B2(5)の場合、価値が違いすぎるという主張が可能です。格も価値も違う取引をそもそも許せない、という主張ですね。実際によく行われます。ま、どの程度主張する必要があるのかな、とは個人的には思うところですが。

③3B2(9)と2B1(8)の場合も、④3B2(9)と2B2(5)の場合も、選手の実力や、格、あと自分が持って行くことができる取引といった内容により、Bはいくらでも、「自分が沈むから」というエゴイスティックな理由ではなく、「(自分の信じる)正義が害され、フェアプレーに反する取引がなされるから」という理由で反対していくことは十分に可能です。

また、それに対して、A、Bも反論できますが、所詮経済的には、A, Bが得をし、Cが損をするトレードについて、争っているので、根本の経済的な状況を変えない限り、どちらも屈服する必然性というのはなく、CのvetoをA/Bは止めることができないということになります。人のことを何とでもいえるし、自分のことをなんとでも正当化できるんですね。基本的に無駄な議論になりがちです。

ま、これがトレードの基本的構造かと思います。非常に経済原則がわかりやすく適用されますね。

人というのは、それに正義とか理由とかつけたがるので、交渉もいろいろな材料が出てきます。

あなたがCだったらこの取引はだまって即座にvetoですか?自分の正義を主張して取引によって結論を分けますか?それとも、人の取引には介入しないのが武士道だと、潔く散りますか?

そこには性格が出そうで非常に興味深いです。

ちなみに私はたぶんいずれでもvetoしません。武士ではないので潔く散ることもないですが、あーあ、これvetoしないと負けるんだよねぇ、とアピールしながら、未練がましく散るんでしょうね。あまり勝つこと自体には興味がなく、仕組みを知りたいとプレーしている面が強いので。これも一つの反応ですかね。

No comments: