2008-01-29

パウエル二重契約問題

パウエル選手の二重契約疑惑について

ちょっと、法律家にとっては面白そうな話題なので、阪神とは関係がないので取り上げてみることにします。ちなみに、資料も極めて限られる中で、特に専門家でもないので法律家としての意見表明ではなく、単なる外野の声であることは言うまでもありません。

パウエル投手は、もともと日本では近鉄に所属(2001年から2004)しており、球団合併に伴いオリックス(2005)に、その後巨人へ移籍(2006年から2007)し、現在自由契約選手になっていると報道されています。成績の方は、近鉄時代の2004年に17勝を上げ、最多勝に輝いているほか、2003年、2005年、2006年にも二桁勝利をあげ、いわゆる、先発の柱となることができる投手です。

この選手が、2007年に1勝もあげられず巨人を首になった。で、獲得に乗り出したのが、日本で実績のある外人を集めて昨年一定の結果を得た古巣のオリックス。おいしいと思ったのでしょうね。オリックスはパウエルを獲得したと1月11日に発表しました。報道によれば、それに基づいて、1月22日には統一契約書の(おそらくサインページ)のファックスも受け取ったそうです。

オリックス球団のHP http://www.buffaloes.co.jp/info/info.asp?n=1643

一方、同じく、自由契約ならおいしいと思った(?笑)のがソフトバンク。オリックスの支配下選手として登録されていないのを確認のうえ、パウエルに統一契約書にサインをさせ契約し、契約合意を発表します。

ソフトバンク球団のHP http://www.softbankhawks.co.jp/info/press/2008/0129.html

報道によれば、その結果、パウエルは二重契約となり、怒ったオリックスはパリーグに提訴すると息巻いています。同じく報道によれば、この場合には野球協定が適用になるとのことですので、では、そもそも、野球協定にはなんと書いてあるか、ちょっと確認してみました(すいません、全文は読んでませんが、適宜関係しそうなところをみました)。

野球協定とGoogleで検索したところでてきたのは、日本プロ野球選手会のHPに掲載されている「日本プロフェッショナル野球協約2007」なるもの。後半には、同や旧協約46条で実行委員会が定めると規定されている「統一契約書様式」というものもついています。また、米国の選手との契約に関係するのかなと思われる、「日米間選手に関する協定(訳文)(本当は英語の原本に目を通すべきなんですが、ここは便宜上日本語の方で・・)なるものも示されています。選手会のHPが本当に日本プロ野球選手会のものかも含め、一切原本性の確認はしていませんが、仮にこれが報道等でいわれている、いわゆる野球協約と統一契約書であるとして、話を進めます。

選手会のHP http://jpbpa.net/jpbpa_f.htm?convention/index.htm

報道等で見る限り、今回の論点は、オリックスとパウエルの契約が成立しているか、オリックスはパリーグ会長の裁定を求めることができるか、という2点が問題になっているようです。また、オリックスは損害賠償を誰にいくら求めることができるのかというのも問題になりそうです。

前者について、ソフトバンクの言い分は、オリックスの支配化選手としての公示がなく、ソフトバンク側は対面で統一契約書に球団(スカウト)とパウエルの双方がサインしたというものです。おそらく直前に結構あちこちの弁護士に相談しているんじゃないかと推測してます。一方、オリックス側の主張は大要合意に至っているほか、1月22日に契約締結の意思を示す文言とともに統一契約書のサインページが送られてきており、こちらが優先するというものです。

後者は、オリックスはパリーグ会長の裁定を求めてパリーグに提訴するという報道と、連盟事務局が、支配下選手ではないので裁定は難しく、事実上の話し合いをといっているという報道がありました。

まず、前者の契約の成立ですが、日本法(米国法は無視)の原則は意思の合致で契約が成立し、効力が発生するといわれています。ざっくりいうと、要は両者が、概要同じこんな契約ねーというのを心に思いえがいて相手に伝え合えばいいということです。日本とアメリカということで、遠隔地間の契約ということもありますが、ここでは大きな問題とはならなさそうです。

よくよく調べたわけではありませんが、意思の合致でいいと言う根拠は私的自治にあったはずで、そうすると、当事者が契約の成立方法について別の合意がなされた場合は、公序良俗に反しない限り、こちらが優先されるという法律構成になりそうです。

野球協約は強行規定的なものが多く、全部有効なのか?と思うところもないではないですが、すべて野球協約が優先するとすると、野球協約に書いてある限りにおいて、この原則は修正されることになります。

野球協約では、以下のような条項が問題となりそうです。(ちょっと長いですが、以下引用)

第8章 選手契約

第45条 (統一契約書) 球団と選手との間に締結される選手契約条項は、統一様式契約書(以下「統一契約書」という)による。ただし、球団と監督ならびにコーチとの間の契約条項は、これらが選手を兼ねる場合を除き、統一契約書によらない。

第46条 (統一契約書の様式) 統一契約書の様式は実行委員会が定める。

第47条 (特約条項) 統一契約書の条項は、契約当事者の合意によっても変更することはできない。

ただし、この協約の規定ならびに統一契約書の条項に反しない範囲内で、統一契約書に特約条項を記入することを妨げない。

第48条 (違反条項) この協約の規定に違反する特約条項および統一契約書に記入されていない特約条項は無効とする。

第49条 (契約更新) 球団はこの協約の保留条項にもとづいて契約を保留された選手と、その保留期間中に、次年度の選手契約を締結する交渉権をもつ。

第50条 (対面契約) 球団と選手が初めて選手契約を締結する場合、球団役員、またはスカウトとしてコミッショナー事務局に登録された球団職員と選手とが、対面して契約しなければならない。また、選手が未成年者の場合、法定代理人の同意がなければならない。

第51条 (公式名称と氏名) 統一契約書に署名する場合、球団の名称およびこれを代表する役員ならびに選手の氏名は、登記上ないし戸籍上記載された通りとする。ただし、その呼称が慣用され、かつ周知のものについてはこの限りでない。

第52条 (支配下選手) 選手契約を締結した球団は、所属連盟会長に統一契約書を提出し、その年度の選手契約の承認を申請しなければならない。ただし、次年度の選手契約は、その年度の支配下選手についてはその年の12月1日から、またその他の選手についてはその年度の連盟選手権試合終了の翌日から、選手契約の承認を申請することができる。連盟会長が選手契約を承認したときは、契約承認番号を登録し、その選手がその球団の支配下選手になったことをただちに公示するとともに、コミッショナーへ通告しなければならない。

第53条 (契約の効力) 支配下選手の公示手続きを完了したとき、選手契約の効力が発生する。また、選手は年度連盟選手権試合およびその他の試合に出場することができる。

(引用終わり)

これによれば、契約は統一契約書に基づいて行われ(45条)、新たに契約するときは、選手と球団が対面で(50条)統一契約書に署名し、統一契約書原本をみた連盟(この場合パリーグですね)が支配下選手として公示し、コミッショナーへ通告したときに契約の効力が発生する(52条)ということになります。

ひとつの考え方としては、契約書に署名したときに契約は成立し、公示手続きが終了したときに効力発生でしょうか。他の構成もできそうで悩ましいところではありますが。

こうやって成立と効力発生を分けて考えるとすると、今回の場合、オリックスとの契約で統一契約書の締結があったか(契約の成立があったか)が問題となりそうです。協約上、統一契約書に基づく契約の締結が求められており、「初めて」契約を締結する場合は対面して契約を締結するということになっています。この締結を契約の成立と同義と読む限り、要は対面でサインしないと契約の成立はない、とそういうことですね。

ただ、この場合面白いなと思うのは、パウエルはもともとオリックスに所属していた点です(極めて例外的で、これが、このエントリを書いて見ようかと思った所以です)

その時点でも野球協約に基づく契約はあったはずで、とすると、今回は両者間の「初めて」の契約ではないんではないかともいえそうな気もするのです。初めてでないならば、対面条項は適用がなく、統一契約書を使って締結していればいいということになり、それ以外の手続きの規定はないことになります。意思の合致の方法としてサインページのファックスでのやり取りというのは実務上広く行われているので、無様式ということであれば、これが無効とされる可能性は極めて少なそうです。したがって、契約の締結はあるが、効力の発生がない状態となるのでしょうか。こう解したとしても、契約の効力は統一契約書の提出手続き(写しでいいという記載はどこにもなくおそらく原本を提出か、原本提出し、還付手続きとかじゃないかと推測)を含む公示手続きが終了しない限り契約の効力は発生しないので、結局パウエルの協力がないオリックスが契約の効力を発生させるのは極めて難しそうですが。

しかも、この場合、ソフトバンク側の有力な反論がありえます。野球協約は初めての契約締結と更新(49条)しか規定がなく、これはそもそも更新以外はすべて初めての契約締結と解釈するからにほかならない、というものです。実務上、そのように扱われてきていたという歴史等があれば、より有力な主張となると思います。

この場合は、1月10日の基本的な意思の合致と、それを確認するファックスのやり取りはあり、契約は成熟していっているが、なお、契約の成立はないということになるのでしょうね。その場合、オリックス側が主張するのは契約締結上の過失とか不法行為とかになるんでしょうかね。

で、いずれにせよ、オリックスが主張したいのは、これ問題だろ!ということですね。では、次にどうやって問題提起をして争っていくかです。

日本法上裁判に持っていける法律上の紛争であっても、当事者が別途の合意をしている場合は、仲裁・調停・和解などの手続きで最終的に決着することも無論可能です。

ここでは、野球協約が提訴について定めているので、別途の合意としてその適用があるものとして、野球協約上の紛争解決についてみてみます。

野球協約では以下のような条文が関係するでしょうか。(以下引用)

第8章 選手契約

第61条 (選手契約の異義) ある球団が他球団の選手契約につき異義のある場合、その選手の支配下選手公示日より15日以内に、相手球団が同一連盟内のときは所属連盟会長へ、また相手球団が他の連盟に所属するときは、申し立て球団の所属連盟会長を経由してコミッショナーへ、異議の申し立てをすることができる。

第20章 提訴

第187条 (連盟内の紛争) 球団、球団役職員、監督、コーチ、選手、連盟役職員、審判員、記録員、統計員は同じ連盟に属する球団または個人を相手として、所属連盟会長にあらゆる紛争につき裁定を求める提訴をすることができる。

第188条 (その他の紛争) この組織に属する団体または個人は提訴の相手方が同じ連盟に属する球団または個人でない場合は、コミッショナーに裁定を求める提訴をすることができる。

第189条 (提訴期限) 前各条による提訴の期限は別段の定めのない限り、提訴の原因が発生した日から30日以内とする。

(引用終わり)

もし、このままソフトバンクの申請により選手契約の公示を行うと、公示から15日以内であれば、オリックスは、異議を申し立てることができます(61条)。また、これとは別にソフトバンクとの間に紛争があるとして連盟会長に裁定を求めることもできそうです(187条)。パウエルについては、現状連盟に属していないということになるので、これを根拠にコミッショナーに裁定を求めることもできそうです(188条)。187条、188条に基づく紛争期限というのは、提訴の原因(おそらくソフトバンクの発表でしょうねぇ、この場合)から30日以内となっています。

新聞報道では、パリーグ連盟事務局長の話として、パウエルが支配下にないから無理との意向を示していますが、良くわかりませんでした。多分オリックスはソフトバンクを相手に訴えることで容易にこの問題を解決でき、オリックス側の中村本部長もソフトバンク球団の名を上げているので、若干食い違いがあるのかなと思います。

また、公示に進めば異議が出ることは確実であり、その申立先も結局はパリーグ連盟であるのに、パリーグとして乗り出さない意味ってどこにあるのだろう?と頭に???がいっぱいの状況になりました。

多分、事務局の意向に従って話し合いという方向になると思うのですが、個人的にはここはひとつガツンと争っていただいて、結果だけではなく、詳細な裁定書でも公表してもらいたいところです。法律、野球協約の適用関係も含めて専門家の意見書でも取り寄せて、それを別紙でつけるような。まぁ、日本の裁定と言う言葉から受ける印象からすれば、理論的なものより結論が重視されるのでしょうし、まぁ、禍根を残さないようにという姿勢で行われて、、、というだけでしょうがね。

日本でも、みんなに開示されるような世間を揺るがすレポートってのがあってもいいんでしょうに。

最後に、個人的に疑問に思ったのが、もし、損害賠償を求めるならどうなるんだろう?ということ。損害賠償額の予定があれば、まぁ、普通はそれの適用があるのでしょうが、特別のサービス契約で、となると結構損害賠償額を決めるのは難しいのではないでしょうかね。ソフトバンクの得る利益を持っていけるとしても、それの法律構成はいまいちわからないし、(契約締結ありとしても締結上の過失としても)信頼利益ってのも良くわからず、かといって、ソフトバンクからパウエルに渡される報酬のすべてとなるわけもないだろうし。。。つくづく自分が訴訟弁護士ではないのだなぁ、と感じました()

まぁ、外野の野次馬としては、新たな展開(いきなり和解はやめてほしい)を待つばかりです。

ちなみに、この件、ファックスの署名転送ってのがよく行われている実務を経験している身からすれば、心情的にはオリックス側に立ちたい感じですね。報道ではソフトバンク有利一色で、実際ソフトバンクが一番法律家に相談している可能性が高そうなのですが。



いずれにせよ、いろいろ問題とすることはできそうな事例だけに(思いっきりきめうちではなしをしても、上記のように山ほど問題点はありそうです)何かと問題となりがちな野球協約についてもっと法律的な関心が高まるといいなぁと思っています。

2008-01-07

新年最初の阪神!!

あけましておめでとうございます。今年も皆様にとっていい年になるといいですね。

年末は、ロックフェラーのツリーを何度も見に行く羽目になった後、クリスマスでオーケストラを最後尾席から聴き(聞きに行ったのですからいいのです。寝てもばれないし)、教会に行き賛美歌を歌い、(知らなかったとはいえ)ドネーション開始直前に逃げるように教会から出るなどのまぁ、平和な日々をすごしました。

その後ボストンでちょっと飯を食ってきました。事前の情報もなくいったものですから、どこも行く当てもなく、昔茶箱を投げた船はどこだ?と探し回るも、焼失!!とのガイドブックの説明をみるにとどまりました。というわけで食事のみが思いで。一番おいしかったのは、Union Oyster Barというところの、牡蠣フライ。ついてから友人のブログを見て周り、そこにあったので地球の歩き方を見ながら歩いていった次第です。フライドチキン風の衣がついていて、日本人には若干不思議でしたが、ケンタッキーフライドチキンの国だなぁと妙に納得。無論、大学めぐりなぞ、興味もなく、飯だけ食って帰ってきました。

年が明けて、なぜか執筆におわれています。この週末ついに書き出したのですが、むろん1日で終わるわけもなく。。。

そうすると、なぜかブログも更新する気になるし、たまった洗濯物を洗ったり、部屋の整理なども始めてみたくなるものです。うーん、われながら、非効率。

というわけで、今日は朝から友人のブログにコメントしてみたのですが、ニュースを見ていると、阪神の今年の初大型記事が。。

新井のFA補償で赤松が広島に行ってしまうようです。若干補足すると、FAは、選手会とオーナーの交渉で毎年制度が変わる、なんだかよくわからないものですが、現在のところ、FAで選手をとった球団は、とられた球団にFA選手の年俸をベースにした金額を補償するか、代わりの選手を渡すという仕組みになっているようです(実際は年俸の1.2倍を支払うか、0.8倍+選手のようです)。とった球団は、取られたくない選手28名をプロテクトする。で、とられた球団はそれ以外の選手からほしい選手を選ぶわけです(外国人は選べないようです。数年して外国人扱いされなくなったオリックスローズのような選手はどうなんでしょうね。)。

無論、選手補償で選手をもらった球団はもらった選手の今後の給料を支払わなければなりません。今回の場合、お金がないとの評判の広島相手だから、むしろ金本とか高額選手をはずして、若手をしっかりプロテクトしたほうがいいのではないかというような冗談も年末には聞かれたのですが、とられちゃいましたねぇ、期待の若手。

個人的に昨年の期待の選手にあげていた赤松。これで、喜田に続いて、この1年で2名も有望期待選手が広島に行ってしまいました。いずれもウエスタンのタイトルホルダー。赤松がとっているのが、いずれもウエスタンの首位打者(2005年)、最高出塁率(2005・2006年)、盗塁王(2005・2007年)。ちなみに喜田は2005年、2006年の2年連続で打点・本塁打の2冠。

日本のウェスタンはタイトルをとっても1軍で活躍できるとは限らないのですが、入団初期にタイトルホルダーまで上り詰める場合、活躍している人もいます。イチローなど。

赤松も、阪神を離れてつらいでしょうが、広島もいい土地です。空気もきれいで自然も多いし。是非是非がんばってほしいものです(阪神戦以外で)。

あ、ちなみに、このブログ、友人から阪神のところだけ(とおそらくマクロ関係)は読み飛ばすとよく言われますが、そんな雑音にはめげず今年も阪神を、軸にブログ書いていきたいと思います。

よろしくお願いします。