トレード (3) 評価軸をたくさん持つ
トレードが双方に利益をもたらす以上、行った方が得です。で、そのときに、もし人が持っていない価値観を発見することができたならば、人が行えないトレードも可能となるのです。
フォーマットによる価値の違いを理解する
例えば、先ほどの事例。
A 3B1(10), 3B2(9), 2B15(1)
B 2B1(8), 2B2(5), 3B15(1)
ともっているときに、枠が2B/3B、それぞれ1個づつならば先ほどのように様々なトレードが成立します。
一方、枠がUtil2つなら?
Utilには2B, 3Bのいずれも入れて使用することができるので、トレードは成立しません。両者が特になる取引がないからです。実際のゲームでは、野球の先発とか、バスケットとかはこんな感じですね。
具体的にいうと、Aにとっては、今度は3B1(10)は10の、3B2(9)は9の価値を有することになってしまい、これ以上の価値を提供されない限りこれらを提供することはないのです。なお、2B15(1)は0の価値しかありませんが、これを1以上の値段を出して取引するメリットはB煮もありません。従って、なんの取引も行われないのです。
先ほどのAにとっての3B1(10)の価値は1,3B2(9)の価値は0、2B15(1)の価値は1だったわけですから、フォーマットがちょっと変わるだけで全然価値観が変わってきます。客観的な価値はそれぞれ、10,9,1で全く変動していないのに、です。
よくフォーマットについて考慮しないで、トレードがひどいものかどうか議論しているのを見かけますが、非常に限定的な場合を除いて全くナンセンスとしか言いようがありません。選手の能力の比較ならいいのですが、ゲームにおける価値というのが、選手単体で語られているとしたら、それは、悲しい誤解ですね。
人とは違う評価軸を持つ
では、先ほどの2B, 3Bに分かれたフォーマットのまま、今度はCの立場に立ってみましょう。
事例
A 3B1(10), 3B2(9), 2B15(1) 合計11点(2位)
B 2B1(8), 2B2(5), 3B15(1) 合計9点(3位)
C 3B3(8),3B4(7),2B3(4) 合計12点(1位)
今度は、ABは、自分の合計値をあげるだけでなく、その取引で自分の順位が下がらないようにするとします。順位が一番の価値でポイントがその次というわけですね。
そのときにCの立場に立つと、どんな発想でいかなる取引をなしえるのか。また、みなが合理的に努力をした場合誰が勝つのかを見ていきましょう。
まず、Cとして、取引をする相手はBだけですが、Bと取引をすべきか?
A, B間の取引は、前述の4つが考えられますが、今回はみな自分の順位が下がる取引は受けません。従って、成立の余地があるのは、①3B1(10)と2B1(8)の交換、③3B2(9)と2B1(8)の交換の2つです。前者の場合、A(17)、B(15)、後者の場合、A(18),B(14)となります。いずれも、A1位、B2位、C3位となり、これ以上取引は成立しません。
いずれも、成立すると、Cの最下位は決定です。従って、これを避けるために、CはBとの取引を試みる必要があります。
B, C間で順位について考えず、点数についてのみ考えた場合に成立しうる組み合わせは以下の4つ。
| 交換後のB | 交換後のC |
⑤2B1(8)と3B3(8) | 3B3(8)+2B2(5)=13 (2位) | 3B4(7)+2B1(8)=15 (1位) |
⑥2B1(8)と3B4(7) | 3B4(7)+2B2(5)=12 (2位) | 3B3(8)+2B1(8)=16 (1位) |
⑦2B2(5)と3B3(8) | 3B3(8)+2B1(8)=16 (1位) | 3B4(7)+2B2(5)=12 (2位) |
⑧2B2(5)と3B4(7) | 3B4(7)+2B1(8)=15 (1位) | 3B3(8)+2B2(5)=13 (2位) |
ここで注意してほしいのは、順位保存、点数上昇の法則で動いているのはBだけで、Cは特にそれに縛られないということです。この前提で検討します。
両方の順位が下がらずに点数が上昇する組み合わせは⑤、⑥です。ただ、Bはこれに乗ってきません。Aとの交渉で最低でも2位14ポイントが保証されているからです。
もし、Cも、AB同様、順位が下がる取引に応じられないとすると、CはAに競り負けて、AとBとの間で取引が成立し、Cの最下位は決定します。
ここで、もし、Cに順位が下がっても放っておいたら最下位になるのだから、それを回避できればいい、その方が順位が上に行くから価値がある、という価値判断があれば、どうでしょう。A, Bには全く理解できない、別基軸の価値観です。
BはAとCを競らせます。その結果、Aから引き出せる最高の条件は、取引①、この結果Bは2位の15ポイントを確保できます。一方、順位を下げても最下位を回避することに意義を見いだしているCは、⑦、⑧のと理引きに応じることができます。その結果、Bは1位かつ15ポイントまたは16ポイントとなることができ、Cは順位を落としつつも、3位になる可能性を回避することができます。
で、実はここはCのがんばりどころです。
⑦の取引が成立した直後は、以下の状態になります。
A 3B1(10), 3B2(9), 2B15(1) 合計11点(3位)
B 2B1(8), 3B3(8), 3B15(1) 合計16点(1位)
C 2B2(5),3B4(7),2B3(4) 合計12点(2位)
この状態から取引が発生するとしたらAC。Cが最大の利益を得るのは、3B1(10)と2B3(4)を交換したとき(Aにデメリットはなく、Aは受けます)。このとき、Aは13点、Bは16点、Cは15点となり、これ以後の取引は行われません。Cにとっては2位の15点がMAX。
一方、⑧の取引が成立した直後は、以下の状態になります。
A 3B1(10), 3B2(9), 2B15(1) 合計11点(3位)
B 2B1(8), 3B4(7), 3B15(1) 合計15点(1位)
C 3B3(8), 2B2(5),2B3(4) 合計13点(2位)
この状態であれば、別の結果になり得るのです。AC間の取引でCが最大の利益を得るのは3B(10)と2B(4)を交換したとき。このとき、Aは13点、Bは15点、Cは15点となり、これ以後の取引は行われません。Cにとっては同点1位の15点がMAXとなり⑦よりもメリットが大きいのです。
このように、Cとしては、ABよりも広い視点を持つことにより、最下位の危険を回避することができ、場合によっては同店1位をねらうことができるのです。CがBに「⑦より⑧がいい」というのは実は楽です。⑦だと、Cは単に順位を失うだけで、点数が伸びないので、これはあんまりだと訴えるのはBに対して(Bが順位保存、得点増大という価値観で動いている限り)結構説得力を持ちます。
ただ、BとしてもAと取引しても当該取引により2位15点にはなるので、これを拒むのも十分に合理的です。
その場合、Cとしては、⑧の取引をするのが、一番合理的な結論となるのです。
Aの正義感に困惑するC
では、⑧の取引をみたAの反応はどうか。
⑧の取引は、Cから3B3(8)が提供され、Bから2B2(5)が提供されるもの。結果Bは7点得点を伸ばし1位となり、Cは得点を増やさずに2位に転落する。で、Aは3位。
合理的Aはすべての取引にVetoしてもいいのですが、ここで特徴的なのは、正義派A。
正義派Aの言い分としては、全体のポイントが伸びず、順位を落とす取引をするのは、CからBへの贈与だ、Cはwasteに相当する取引をしている。知識の深いBに何も知らないCはだまされているのだ!という主張ですね。
口語調にすると、こんな感じでしょうか。
「おいおい、C、なんて取引をするんだ??笑っちゃうよ、なんの得もない。そんなことしたらBの勝ちが決定するだけじゃんか。しょうがないやつだなぁ。こんな取引が横行するって、このリーグは一体・・・ま、しょうがないか、ここは一つ俺がVetoしておかないと。。。」
ところが、CはAには存在しない価値観で、最下位回避にはこの取引もやむを得ないとトレードしているわけです。
この取引がAによりVetoされれば、Cに待っているのは最下位のみ。Aの正義感は、ホント勘弁してよ、わかっていないのはあんただから、ということになります。
Aが、自分はCの感じるすべての価値観を理解していると証明するのは理論上無理であり、また、自分の理解しない価値軸が存在するというのを認識するのは非常に困難です。にもかかわあらず、安易にその考えに流れるのは、自分は一段上の存在、わかりやすくいうと自分は神だからすべて見えているという前提に立っての発言ともなりかねません。非常に危険な考え方。その結果、考えの深いCは、正義派AのCを守るためのVetoにより最下位に沈むのです。正義派Aが本当にCを守りたいなら、放置するというのが、正解なのですが、それが見えている正義派Aというのは、経験上見たことがありません。自分の「正義」に反するからVetoだと騒ぐわけですからね。
ま、これは極端としても、Vetoするときは、自分には一見見えない価値観で当事者が動いているかもしれないという可能性は常に排除するべきではなく、常に自分の知らない価値軸があるのかもしれないと謙虚に受け止めるべきでは、とは思います。
無論、合理派AにもCは最下位に突き落とされますが、全ての案件にVetoする「合理的」な人間ってのはなかなかいませんから(笑)。
フォーマットのドラフトへの反映
このABCが持っている6人の選手をドラフトするとした場合、もし、フォーマットがUtil2つということであれば、3B系の順位の高いのからとっていくのが正解となります。
ただ、2B/3Bとわかれていて、しかもトレードが積極的に行われるとしたら、Bのようにプレミアポジションである2Bの上位2名を抑えるのが正しい戦略になります。
この場合最初の合計値よりプレミアポジションを「最初に」抑えているということが何より重要になるのです。
Bと取引したCはプレミアポジションである2Bを2名持つことになりますが、Bほどはその立場を生かせず、結局、最初の出だしは1位であるものの、取引をしなければ3位に、取引をしても2位にしかなれないからです。
実際のトレードはもっと複雑な事情が絡むのですが、こんな単純な例ですら、取引価値というのは、状況により大きく変わり選手の価値は一義的ではないということはおわかりいただけるかと思います。
したがって、選手の価値が一義的であるという議論については、まゆつば、まゆつばと思いながらいつも読んでいます(笑)。
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