08ドラフト13 クローザー祭りの構造
クローザーはポジション内で相対的に価値があるという構造と異なり、絶対的に価値があります。これを失うとまったくだめという。こういう選手が必要な場合の希少価値というのはどういう風に働くのでしょうか。
最初に書いておきますが、クローザーが相当必要となるのはRotisserieです。H2Hではその場しだいですし、先発投手を回すということになれば、そこまで数が必要なくなり、自然FAにもクローザーが落ちていますので、力学は異なります。というわけで、ここではRotisserieのみで。
ポイント対象部門で一番特徴的なのはセーブ。クローザーしか獲得できないためです。勝利のためには120セーブくらい必要といわれています。年間50セーブする人は基本的にいないので、要は少なくとも3名、できれば4名クローザーは獲得したい。ただ、クローザーは各チーム1名なので、12名で30チームのクローザーを競うとひとり2.5名しかはいらず、全員不足となる。従って、これは競争というのがクローザー希少価値の構造。
もう一つ頭に入れるべきは、クローザーの貢献度の低さ。セーブポイントでは絶対的な貢献をするクローザーもほかの部門では貢献度が低い。ほかの部門は勝利数、奪三振、防御率、WHIP(1イニングあたりの出塁率みたいなもの)ですが、これはいずれも先発投手1名の方がクローザー1名より貢献する。勝利数は、先発投手の稿でまた書きますが、打点・得点と同様外部事情が入りすぎるので、当初のドラフトでは昨年の成績だけ見ていてもよくわからない。比べるべきは残り3つなのですが、これはいずれも投げるイニングが項目全体及ぼす影響というのが大きい。奪三振は積み重なる数字ですが、数字が大きいこと、試合数ではなくイニング数で管理されている投手は「回す」(ランクの見方参照)ことができるために、率と同様に考えることができます。とすると、率の特性として、分母で存在感が決まるので、クローザー(通常60イニング)の質は、先発(通常200イニング)の3倍の1の価値しかないという結論になります。
従って、クローザーであることは重要であるが、その質は重要ではなく、貢献度も低いということになります。
従って、ここでは、クローザーの能力(頭文字が一緒であることを生かしてCを使い回します。笑)と、クローザーがとれていないときの喪失感を表すために、C(4)とかいう表記を使うことにし、チーム合計値を出すときに、Cがとれていないチームは0を、とれているチームは1をかけてチーム合計値を出すという事にします。
前回同様に、X、Y、Z(リーグの残り全部。10名ですね)でドラフトをするとします。7名指名することにし、ドラフト1位では、能力12を、2位では11を・・・とれるものとし、それぞれの順位内では無限に存在するものとします。指名順は、奇数順位はX->Y->Z、偶数順位はZ->Y->Xの順番で行われるとします。
この場合に、XはCをいつ指名するのがいいのか?
答えは簡単ですね、最初です。YZも合理的に指名した場合、以下のようになります。
ラウンド | X | Y | Z |
1 | C(4) | 12 | 12 |
2 (Z->Y->X) | 11 | 11 | 11 |
3 | 10 | 10 | 10 |
4 (Z->Y->X) | 9 | 9 | 9 |
5 | 8 | 8 | 8 |
6 (Z->Y->X) | 7 | 7 | 7 |
7 | 6 | 6 | 6 |
それぞれ合計値は、Xは55、Yは0(62*0)、Zも0となります。
ラウンド1を終わった時点では、ほかのチームより8点も負けているXですが、ほかのチームはクローザーを指名できないので、最終的には逆転します。この計算式ならクローザーが1名しかいないならどんなに能力が低くても常に最初に指名すべきということになります。
では、クローザーがC(4)、C(3.9)の2名いる場合は?
本来C(3)でもいいのですが、クローザーのイニング数の少なさは、各クローザーの能力のさも一緒に圧縮するので、小数点で示した方が現実的だと思い、小数点にしてあります。
これも、X、Yが最初に指名して終わりです。Xは次のドラフト順は6番目なので、最初を逃してYZにとられたら終わりですし、同様のことはYにも当てはまるからです。この場合、Xは55、Yは54.9、Zは0(62*0)となります。今回もめでたくXの勝ちですね。
次に、クローザーがC(4)、C(3.9)、C(3.8)の3名いる場合は?
これは、X、Y、Zがそれぞれ最初にクローザーを取得します。ただZだけ2巡目に持って行けるのですね。その結果、Xは55、Yは54.9、Zは55.8となり、計算上はZの勝ち。
ただこれは前提の置き方次第で、実際はZは1巡目の最後と2巡目の最初を同じ時に指名するので、不合理な結論。以下は、2番連続で指名できる場合は、上のラウンドでクローザーを指名しないといけないというルールの下検討します。
このルールに従うと、Xは55、Yは54.9、Zは54.8となりXの勝ち。
では、クローザーがC(4)、C(3.9)、C(3.8)、C(3.7)の4名いる場合は?
実際上はファンタジープレーヤー12名以上にクローザーがいるので、この場合に当てはまります。この場合が、結構興味深い結果になります。
まず、例外的に全員が、自分も相手も常に「自分のチームの合計値を高めるという観点から」合理的に動くことを知っている場合、全員最後にクローザーを指名することになるわけです。ただ、本当に冷静で、数値も見えているこのゲームの場合、この合理性は勝という合理性とずれがち。たとえば、今の設例だと、YZは負けを最初から知るので、上のランクでクローザーの独占をしようとする。自分の点も低くなるが、クローザーなしの人を作ればその人が最下位になり、自分の順位が上がるし、もし、4名とも独占できるなら自分がトップとなるからです。よって、数値が見えているこのゲームでも、最初の信頼とか合理性の前提というのは実は成り立ちにくいのではないかと思います。
通常の場合において、ポイントは全員が自分は合理的だが他の人はどう動くかわからないと考えること。別に人を嫌うという話ではなく、純粋に知り合い同士でやっていても、初心者がどう動くかも、特定チームのファンがいつ趣味に走るかもわからないわけですので、ふつうはどの環境でもこの状況になりやすいです。
思い出してほしいのはドラフト順と、クローザーの能力の低さ。「クローザーは絶対必要だけどできるだけ後の順位でほしい」これがドラフトの際の心理状況となります。チキンレース!!
この場合は、Yが有利となります。
ラウンド | X | Y | Z |
1 | C(4) | 12 | C(3.9) |
2 (Z->Y->X) | 11 | C(3.8) | 11 |
3 | 10 | 10 | 10 |
4 (Z->Y->X) | 9 | 9 | 9 |
5 | 8 | 8 | 8 |
6 (Z->Y->X) | 7 | 7 | 7 |
7 | 6 | 6 | 6 |
Xはドラフト順が、1番、6番、7番、8番となります。したがって、1番でクローザーを指名しない場合、2順目の6番のときにはもうクローザーがいない可能性があります。クローザーがいないということは即負け決定という設定ですので、この危険を冒すことはできない。したがって、1順指名はC(4)です。残りクローザー3名。
Yは2番、5番のドラフト指名です。1巡目にクローザーをスルーしても、Zが指名できるのは2名のみ。C(3.7)はいずれにせよ手に入ります。従ってクローザーはスルー、ふつうにその他を指名。
Zは指名順は3番4番の次は、9番で、この機会を逃すとクローザーがいないので、クローザーをとる。上記ルールに従い1巡目にクローザーを指名します。残り2名。
Yは、残りクローザーをスルーして、万が一Xが不合理にC(3.8), C(3.7)の2名を追加で指名した場合クローザーを一人も指名できず、(X41.7、Y0、Z54.9)負けになるので、このリスクを避けるべく2巡目にはC(3.8)を指名します。
この能力設定では、C(3.7)は、能力の低さから指名されないという結論になります。
その結果、X55, Y55.8, Z54.9でYの勝ちとなります。
何を示しているかというと、ドラフトでのクローザー連続取りという心理状態の影響を受けにくいのは真ん中だということになります。端っこは次の指名がずっと先なので、どうしても希少価値を必要以上に高くとる必要が出てくるのです。指名順後が不利というのはスーパースター等をとれないというレギュラーを取りに行くという観点のほかに、希少価値を取りに行くという観点からも不利で、2重の不利益を被ります。実力が拮抗していると、ドラフト順というのは結構大事になってくるはずです。特にYahoo!の単純なドラフト順の場合。
これを回避するにはXはどうするか。「クローザー祭りだ、みんなでこのラウンドクローザーをとるぞ!」とあおるわけです。もし、Yも1巡目でとればXが勝つのは見えてますので、クローザー祭りは最初に指名をし、あおる人のためにある。あおられる必要はない、というのがここの結論になろうかと思います。
ま、前提の置き方次第というのはありますが、去年遊んだ感覚からすると、個人的にはだいたい上記の数値くらいで違和感はないですね。
最後に、VWXYZの5名で(1巡はこの巡、2巡は逆・・・で)指名するときを考えてみます。クローザーは人数に応じて、C(4)から0.1ずつ減らした人数までいることにします。
1-5名の時は当然全員が1巡指名→Vの勝ち
6名の時は、Yだけ2巡指名→Yの勝ち
7名の時は、YXだけ2巡指名→Xの勝ち
8名の時は、VZは1巡指名、YXが2巡指名、Wが3巡指名→Wの勝ち
最後のだけ表にしてみましょう。
同様に皆、自分は冷静だが、周りはもしかしたら不合理?という心理状態。
ドラフト順 | V | W | X | Y | Z |
1巡目(V->Z) | C(4) | 12 | 12 | 12 | C(3.9) |
2巡目(Z->V) | 11 | 11 | C(3.7) | C(3.8) | 11 |
3巡目(V->Z) | 10 | C(3.6) | 10 | 10 | 10 |
4巡目(Z->V) | 9 | 9 | 9 | 9 | 9 |
5巡目(V->Z) | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 |
6巡目(Z->V) | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 |
7巡目(V->Z) | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 |
クローザーは、C(4)からC(3.3)までの8名。そのうち5名が指名されます。
Wがチキンレースで最下位になるのを避けつつも、勝つという風に考えるならば、Wは3巡目まで待つのが正解。この結果、V55, W56.6, X55.7, Y55.8, Z54.9となり、Wの勝ち
ただ、ZYXとクローザー指名が続いて事実上のクローザー祭り状態になったときに待てるか。待てなければXYには勝てません。Wは55.6になっちゃいますからね。
では、クローザー祭りというかけ声はどこで効くか。
上の表では、最初にクローザーを指名しないといけないVはその不利を知っているので(実際は上の設定ですらやはり指名順下位が不利でZが不利なんですけどね)、号令をかける価値があります。ただ、WXYZが超合理的であるという場合以外でも、ある程度の合理性があれば、まだ7名いるしと思い、このかけ声にはさすがに引っかかりません。従って、Vの声は無視されやすい。
では、Zが号令をかけた場合はどうか。号令をかけるか否かにかかわらずYZはとるわけです。彼らもWを引っかけたいという欲求はあるのが合理的なので、「僕もとった!とか言いながら」とってやるわけです。
その場合に、本当にWは待てるのか、というのがクローザー祭りの祭りといわれるゆえん、逆に言うと怖いところではないかと思います。一種の昂揚になって指名しちゃうんじゃないかと。特に最後の2名のクローザーがC(3.4), C(3.3)とかではなく、C(1), C(1)とかになると、WはVの不合理な行動(さらにクローザーを2名指名)があった瞬間3巡目指名でもXYZ勝てなくなる(V37.6, W54, X55.7, Y55.8, Z54.9)ので、自分は冷静でもXが昂揚しちゃうか?とか考えだし、結局2巡目でとってしまうということはままあることじゃないかと。
ま、実際は、こんな単純な数値ではないですし、人数も違うのでしょうが、一種の昂揚を説明するとこんな感じでしょうか。
クローザー祭は、成立すれば、続きの最初に指名した方が得です。
これを最後に若干別の観点からの説明を加えてこの稿のシメとしたいと思います。
それは、Yahoo!のランキングをどの程度信じるかということです。特にポジションと部門まで違うもの同士。例えばクローザーと野手、先発と野手の順位付けはあれでいいのか?ということ。
この疑問は常々あるのですが、もし、あのランキングを今年の活躍と希少価値を反映したOrankはともかく、実績値についてはポジションを越えて反映しているとし、Orankもその人が作っているのだから、その順が一番チームへの貢献度順になっているはず、と思うならば余計にクローザー祭りに参加するのはまずいことになります。
クローザーのランキングというのは、野手が間に交じる関係上相当間が空いています。昨年の実績を見てもランクは相当離れている。だから、ランクということで見た場合は、祭りの末尾になればなるほど、無理矢理相当後の指名の人を指名しているということになり不利益が高まるのです(たとえば40位でOrank60の人を指名すると、次は41位でOrank80の人を指名するというように)。上のC(3.6)とかの数値くらいの話ではなく、ランキングでは本当に50番とか。真のランキング信奉者になればなるほど(初心者は信奉者からはじめるほかないです)、祭りに加わる(祭りをおこしにかかる初心者はいない)のは不合理という結論になるのですね。初心者にはつらい結論です。あれはいじめだと思います。
というわけで、私は、あおっての祭りというあおりは、基本的には自分からはしないでおこうかなとおもっています。